見られたくないところをしっかりと見られて言い訳が浮かばない。
本当は雅秀をここで待っていることが少しだけ誇らしかったのだ。こんなに完璧な手配ができる雅秀が自分のためにここに来ると思ったら不覚にも嬉しさがこみ上げた。
だからってそう思っていたことを絶対に雅秀には知られたくはない。
「水鳥が魚を捕った」
光長の言葉に雅秀は一拍おいてから大笑いした。
「お前、どれだけ不幸な生活してるんだよ」雅秀は笑いながら光長の背中を叩いた。
「お前といると俺はどんどん不幸になっていく」光長はあえて不機嫌そうにそう言うと、雅秀はまた笑う。
「ほう・・そうか」
その笑顔にまたしても嫌な予感を隠せなかった。
ここが個室なのは元々何かをするために違いない。光長は体を強ばらせると、雅秀はそれを悟ったように光長の肩から背中へ指を這わせていった。
ツーッと背骨をたどっただけなのに光長の体は微かに反応する。
ところが雅秀はその手をすぐに引っ込める。光長は肩すかしを食らったようで頬を赤らめて顔を逸らした。
「さて、食事にするか」
それに気づいているのか雅秀は口元に笑みを浮かべた。
慣れた手つきでベルを鳴らして黒服の男を呼ぶ。程なくすると男は腕に白いナプキンを下げてメニューを手に現れた。
「本日のコースは・・・」
慣れた口調で、それでも丁寧にわかりやすくメニューコースの説明を一通り済ませると男は
「お飲み物は何がよろしいですか?」
「俺は車だからアルコールはいい。お前は好きなのを飲め」雅秀にそう言われて首を横に振った。「俺もいらない。昼間はあまり飲まないから」
「かしこまりました」男は軽くおじぎをすると部屋から出て行った。
雅秀は立ち上がると光長の横に来た。
その手を取ると光長をソファーへと誘う。注文をしたからすぐに料理が運ばれてくるだろう。それを知りつつ雅秀は光長に何をしようというのだろう。光長は首を横に振った。
「これから料理が運ばれてくるのに席を立つのはどうなんだ」
しかしすぐにその腕は掴まれて引き寄せられた。光長は仕方なく立ち上がり雅秀に従った。
ソファーに座るとすぐに唇を塞がれた。幸いこのソファーは入口から背中向きになっている。それでもこんな風にくっついていたら不自然すぎた。
そんな時の雅秀の口づけは体まで溶け出すほど巧みで甘い。
光長の体はぐったりと雅秀の腕の中に落ちてしまった。
<「弦月」湖畔にて3へ続く>
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