この古城は『マーメイド』というレストランだったらしい。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[1回]
ここまで連れてきてくれた仲居は
「それじゃあ私はここで」とステアリングを握る。
「あの少し待っていただけませんか・・」光長がチップを出そうとポケットから財布を取り出すと彼女はそれを断って車を出して行ってしまった。
光長は自分の手際の悪さにうんざりした。
そんなことを考えながら前を案内する黒服の男の案内で入口へ向かう。
本当に城のように木でできた両開きの大きなドアが開いていてそこから除く回廊は奥まで続いていた。その両側には蝋燭を形どったようなガラスの明かりが置かれていて長い回廊を照らし出していた。少し歩くと左手のドアが開けられていた。そこを除くと広々とした部屋の向こうにガラスがありその向こうにテラス、更に向こうに湖が見えた。
部屋の中にはいくつかのテーブルと椅子が置かれてどこからも窓の向こうが見える形になっていた。また、空間も広々としており隣の席との間に余裕がり、これだけスペースがあれば会話などはあまり聞かれないだろう。また、そこに置かれている家具類はどれも古くても高級感があり良く磨かれている。
いずれにしても都会ではとても作ることができない広さとシチュエーションだった。
「お連れ様は遅れるそうなので少しこちらでおくつろぎください」
髪をきちんと固めた黒服の男は一糸乱れる隙もなく完璧な接客で案内した。
光長が通されたのはさっき通ってきた広い部屋の一つ奥にある個室だった。
先程の部屋とは違って小さいが、元々この城の一部屋の広さなのかもしれない。
それでもこの部屋はテーブルだけでは殺風景だと思えるほど広かった。窓から見えるテラスと湖が殺風景だと感じさせない演出になっていた。
窓の手前に置かれているサイドテーブルには一輪のピンク色のバラが飾られて、部屋中にバラの香りが漂っている。
全てが完璧なのは黒服の男ではなくやはり雅秀だ。
どうしてこうも光長のために完璧な手配を怠らないのか。
それともそれは光長の自惚れで、雅秀は誰に対してもこんな風に完璧な手配をする男なのだろうか。光長は通された部屋で窓に向かって置かれていたソファーに歩いていくとゆっくりと座った。どこまでも沈み込むようなフカフカのソファーに体を沈めると水の上で羽を
つくろう水鳥を見つめていた。時折水面を揺らす魚の姿が見えるほど、湖の水も窓ガラスもきれいに澄んでいた。
光長はソファーの肘掛けに肩肘をつきながら、そんな景色を眺めながら微笑んだ。
「何か良いことでもあったのか?」
突然後ろから聞き慣れた声がするとすぐに光長の後ろから少しごつい男の手が伸ばされた。
手は何のためらいもなく光長の顎に伸ばされて顔が上を向かされた。
上から揺れる眼差しで見つめられると過去にもこんな風景があったような記憶がよびおこされる。
「雅秀・・・」
照れくささに視線を逸らすと雅秀の瞳は間近に寄せられた。
思わず瞼を下ろして瞳を閉じると唇に雅秀の唇が重ねられた。バラの香りが雅秀のコロンの香りに変わっていった。
<「弦月」湖畔にて2へ続く>
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