いつだって部屋を出るときは最低この人数だった。
もともと治安の良いところではなく、そして王家ともなるとたくさんの者から命を狙われる可能性があるため、こんな窮屈な生活を強いられている。
世間を知らないマラークにとって、それもこの国が退屈な理由だった。
広間に到着すると、正面の王と后達の席から少し離れた右側の席がマラークの席になっていた。
横にはいつもアサドが一歩下がって座っている。
「ねぇ、商人はまだ?」
宴が中盤になるとさすがに美人の踊りも飽きが来る。
マラークの兄たちは自分の嫁にする女を捜すべく目で追っているが、マラークはいつも何の興味も示さなかった。
この国は成人前でも嫁を娶ることができるというのに、今のマラークには色事よりも世界に興味があった。
それに美しい母親を見て育ったため、この国の女性をきれいだとは思ったこともなかった。
アサドはそんな主を見て、軽いため息をついた。
「少しは嫁の候補でも探したらいかがですか?ほらあの娘などあなた様を見て頬を染めていらっしゃいますよ」
「私は嫁などいらぬ!アサドが一生私の世話をすればそれでいい!」
真面目なのか冗談なのか子供なのか、マラークの言葉にアサドは首を振った。
「そうはいきません。あなたは王家の血筋をそこで絶やす気でございますか?」
「そんなのは兄さん達がやればいいじゃない」
いともあっさりそう言うマラークにアサドは困りながらも、悪い気はしなかった。
なぜならこの美しい天使に一生使える事ができるのであれば、自分も生涯独身を貫ける自信があるからだった。
アサドの中でこのマラークを上回る女性に出会ったことはない。いや、多分アサドの愛情は全てマラークに捧げられているのだ。
まだ若く他と比べても相当見た目は格好いいアサドに、宮廷の女達も一目置くほどだというのに・・・
女達の踊りが終わり、ようやく商人が大きな布に覆われた荷物を引いて姿を現した。
この男は年に2~3回この国へ行商でめずらしいもの売りに来る。
だから皆は例え手に入れられなくても、それを見られるだけでもとても楽しみにしていた。
資源を持ち裕福な国ではあるが、他の国との行き来が自由ではない。
誰もがこの国の情報に飽きているのだった。
「今日はどんなものを持ってきたのだ?」
王も待ちきれずに商人にそう尋ねる。
それに対して商人はニヤリと笑いながら王様に小声で何かを告げた。
皆には聞こえなかったが、2、3会話をしてから王が皆に向かって
「此度の商人の産物はどうやら我ひとりに向けてのものらしい。よって我と商人で奥にて確認いたす間少し待つよう申し伝える」
その通達にザワザワとしたが、すぐに商人が付け加えた。
「王様にお見せする間、他のものを舟からお持ちいたしますので、しばらくお待ちください。本日はたくさんのものをお見せする予定です」
その言葉に皆少しの間、歓談を楽しむ。
「マラークお前は来なさい」
王に手を引かれてマラークが立ち上がると、4人の従者とアサドも立ち上がろうとしたところで「お前達はここで待機するように」と言われてしまった。
そんなに商人を信用しても良いものかとアサドは何かを言おうとしたところで
「大丈夫だよ」
とマラークが微笑んだ。
余計に気になるものの他の兄たちも呼ばれずに、逆にマラークに対する風当たりを気にしたアサドはもう一度席に着いた。
マラークがその場にいるように振る舞うことを決めたためだった。
そうして商人と王とマラークと王の従者2人だけが奥の部屋へとこっそりと消えていった。
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます!