羽根がVIPルームにいたことに翼は気づいてはいなかった。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[0回]
だが探し回っていたらしい。
「羽根?誰とどこにいた?」
訝しげに赤く火照った羽根の顔を覗き込んできた。
とろんと潤んだ目はどう見てもおかしいと翼は気づいていた。
「別にどこへも・・・ひとりでここにいたよ。」
その回答に当然翼は納得しない。
「羽根?!ボタンとれてるよ」
と言う言葉に羽根が慌てて胸を隠した。
「うそ」
翼が試したのだと気づいた羽根は更に赤くなった。
「寝てたから・・・」
それでも本当のことは翼には言えずに羽根はそんなことを言って誤魔化す。
「まぁ、いい帰るぞ」
と腰に腕をまわされた羽根の体がビクンと反応してしまった。
だが翼は何も感じなかったように弟の嘘を黙認した。
逆に羽根は翼に対して(なんかあった?)と思ったが、それを尋ねたところでこの兄もきっと嘘をつくのだと思っていた。
後からあの人達にでも聞いてみよう・・・
羽根は2人の翼の友人達を見ていた。
そのうち蒼空はすっかり機嫌が直ったらしく、ニコニコと羽根に手を振っている。
一方の美波も薄く微笑んで羽根に手を挙げていた。
(ああ仲直りしたんだ良かった・・・)羽根はそんなことを思いながら2人に手を振って翼と店を出た。
もう朝が近いせいか空が白っぽく見えるがまだ朝日は見えてこない。
翼は右手を挙げてタクシーを呼んだ。
1台のタクシーがスッと止まって羽根と翼がタクシーに乗り込むとフッと翼から良い香りがしてきた。
「あれ?」
「ん?」
思わず羽根がこぼした言葉に翼が羽根の顔を間近で見つめた。
翼がタクシーの運転手に行き先を告げると、羽根の片手を掴んだ。
「羽根・・・ごめん何かされたね。放った俺が悪かった。お前は可愛いから危険なのはわかっていたんだけど・・・」
少しだけ辛そうな顔で低い声でそう言われると羽根はもう嘘をつけなかった。
「兄さんのせいじゃないから・・・大丈夫だから俺・・・」
羽根は兄に俯いたまま答えた。そう言う兄も蒼空のコロンの香りがする。
「ところで兄さんの恋人って蒼空さん?」
いきなり核心をつかれて翼はめずらしく赤くなった。
図星だったか・・・羽根は小さく笑った。この兄には幸せになって欲しい。
羽根の思いが兄に通じたのかどうかはわからないがそれでも翼は羽根を心配していた。
「そうだけど、俺にはお前の方がもっと大事だから、お前が辛かったり悲しかったりしたら俺・・・」
と背中に回された腕をやんわりと握りながら羽根は翼の口元に人差し指を立てた。
「何言ってるの?ダメだよ好きな人のことより俺のこととか言ったら。その方が俺は悲しいからね」
だが兄の唇は弟の唇を塞いだ。
一瞬運転手の視線がチラッとバックミラーを通してこちらを見たが、彼もプロらしくそれ以上はこちらを見ない。
いや、見たくもないのかもしれないが・・・
「俺にはいつだってお前が一番だから」
翼の言葉を聞きながら、羽根は蒼空が学生時代言っていた言葉をようやく理解した。
<「恋占い」オフィスにて1へ続く>
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