駅は大きく立派だったが、東京都は違い人が少ない。辺りは見たことのない風景、。
「帰ってきたんじゃないのか?」
光長は列車を降りながら辺りを見回した。
雅秀はただ口元を上げて笑っただけで鞄を持って先を歩き出した。
改札を抜けると広々とした大通りがあり、目の前にいくつか大きなシティホテルが並んでいた。
雅秀は迷わずその中の1件に向かって歩き出した。
光長も雅秀に着いていく。
すぐにホテルの自動ドアが開き入口を入ると、ベルボーイが雅秀から荷物を受け取った。
「ご予約は?」
「いやまだだ」
「お泊まりですか?」
「ああ、空いているか?」
「もちろんでございます。森本様」
ベルボーイは親しげに雅秀に話しかけている。雅秀はこのホテルの常連なのだろうか?
「それじゃあ部屋を頼む。長旅で疲れてるんだ」
雅秀はフロントまで行かずに手前にあるソファに座った。ベルボーイはフロントまで行くとそこからチェックイン用の書類を持って雅秀の前に跪いた。
雅秀は手慣れた仕草でサインを済ませるとベルボーイはもう一度フロントに行きカードキーを手に戻ってきた。
「ご案内いたします」
「いつもの部屋なら案内はいい、キーだけくれるか」
「かしこまりました。ごゆっくりお過ごしください」
雅秀はカードキーを受け取るとベルボーイは丁寧に頭を下げた。
「随分常連みたいだな」
光長は雅秀の後ろからついて歩く。雅秀はフッと口元を緩めただけでエレベーターのボタンを押した。程なく電子音が鳴り扉が開いた。
「電車の中の話だが」
光長はピカピカに磨き上げられたガラス張りのエレベーターに乗り込むと、豪華な作りのフロントが遠ざかっていくのを見ながら話しかける。
「前世の記憶がお前にはあるのか?」
「信じるか?」
雅秀はガラスを背に腕を組む。
「さぁ、とても信じられない。夢だって長く一緒にいれば見るだろう」
やがてエレベーターは止まった。
扉が開くと目の前には先程列車を降りた駅のホームが見下ろせた。
雅秀はまっすぐ絨毯の敷きつめてある廊下を歩き出した。
光長は後ろから窓の外に転がる線路と電車を眺めている。
どうやら駅のすぐ横に立てられているため上からホームや電車がよく見えるらしい。
高層のステーションホテルが今夜の宿になるらしい。
上から眺めているとまるでジオラマを見ているようで飽きがこない。
「こっちだぞ」
先を歩いていた雅秀が突き当たりのドアの前で立ち止まってカードキーを差し込みながら光長を呼んだ。
光長は早足でその前まで行くと雅秀はドアを開けた。
ドアを開けた瞬間中から風に乗ってふんわりと花の香りがしてきた。
雅秀に続いて部屋に入ると正面がガラス張りでパノラマが広がっていた。
それほど高い階数ではなかったが、東京のように周りに高いビルがないため景色が一望できる。
サイドテーブルには桃色の百合の花が飾られてクリーム色の壁にしっくりきていた。
さっきの花の香りはこの百合の匂いだったのかと光長は納得した。
なぜ一介のサラリーマンが地方とはいえこんなに豪華なホテルの部屋を利用できるんだろう?
光長は不思議そうに慣れた仕草で奥のクローゼットを開いて上着を掛けている雅秀を見つめていた。
<「弦月」シティホテルにて2へ続く>
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