「いいから、そんなものぶら下げて歩く気かお前は・・・」
クスッと笑いながら優翔を横に抱きかかえる月深は優翔よりも身長も低く、少し華奢な体格だった。
そう言われると確かに言われた通りだ。
早くこれを取ってくれればいいのに・・・と月深の顔を見上げた。
月深はそんな優翔をチラッと見るとまた笑った。
「お前ってやくざだったのかよ」
優翔はさっきの嵐との会話を思い出した。
「やくざって・・・それは心外だなぁ~これでも多角経営の商社なんだけど」
思いっきり怪しいじゃねぇの
優翔は苦笑した。
「それより俺はどこへ連れて行かれるんだ?」
優翔は駐車場でベンツの助手席に座らされた。
月深は反対側のドアを開けて運転席に座った。
「どこでも良いけど、そうだな軽井沢の別荘なんてどうだ?」
月深はふわりとした優しい雰囲気に笑顔が似合う白馬に乗った王子様のような男だった。
嵐に言われるまでやくざだなんてわかるはずもない。
「軽井沢の別荘って」
逆に優翔が笑った。
だが自分を助けるためにひとりで乗り込んできて、あんなに腕の立つ嵐の部下達を一瞬で倒していた。
「嫌か?」
ハンドルを握る手に優翔が手を重ねる。
「いいや、お前と一緒ならどこでもいいよ・・・それより怪我とかないのか?」
月深は優翔の手をどかすとエンジンをかけた。
「とりあえず早いとこここから脱出するぞ。もたもたしてたらまた連れ戻されるかもしれないからな」
月深のベンツは静かに走り出した。
月深は横で静かに寝息を立てている優翔をチラッと見ると眉間に皺を寄せた。
月深のパソコンに届けられてメールには優翔が裸で2人の男にいたぶられている映像がライブ中継されていた。それを見た瞬間オフィスを飛び出すと真っ直ぐに嵐が経営しているホストクラブにやってきた。
月深にとって優翔は憧れの男だった。
優翔が支配人をしていたクラブに初めて足を踏み入れたときから周りにいたどんなきれいなホステスよりも優翔に兄以上の親しみを感じた。
月深には2人の兄がいた。だが、2人とも月深とは全く違うタイプだった。
優翔はいつだってフレンドリーに月深に話しかけてくれた。
それは月深の正体を知らなかったこともあるのだが・・・・
でも、それももうばれてしまった。
それに1ヶ月が過ぎれば嵐が連れ戻しに来るに違いない。
3億の金が用意できない訳じゃないが、それを動かすにはさすがに父親に事情を話さないわけにはいかない。
それでなくとも親父は月深を可愛がっているから・・・
思わずため息をもらした。
<「更待月」月の石1へ続く>
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