優翔の声がそう聞こえた気がした。
夢じゃないんだろうか?
月深は両手を延ばした。
だがその手に触れるものはなかった。
やっぱり夢なのか・・・
翌朝月深が目を覚ましたベッドの上にはもう優翔はいなかった。
それだけじゃなく、月深の部屋のどこにも優翔の姿は見あたらなかった。
どこまでが現実でどこからが夢なのか・・・
月深はもう一度布団をかぶった。
優翔は自分の部屋に戻るために電車に乗っていた。
まだ速い時間の電車には2パターンの人たちがいる
一つは徹夜してそのまま出社、または家に帰る人たち
もう一つは朝早く仕事に向かう人たち
だが、優翔はどちらでもなかった。
なんだかそんなことが少しだけ誇らしかった。
そんな些細なことなのに・・・
それはきっとずっと月深のそばで月深を可愛がっていられたことが
幸せだったからなのだろう。
優翔は自分の借りてたマンションの駅に着いて電車を降りた。
地下鉄の階段を上がると朝日が眩しい。
思わず片手をあげて太陽を遮りながら部屋に戻った。
するとすぐに携帯電話が鳴った。
「優翔?いまどこ?いくら連絡しても出ないからどうしたのか心配してたんだよ」
店の先輩の東間だった。
そういえば月深と一緒に出たこと店の誰にも告げてなかった。
優翔は勝手に出ていったことを東間にとがめられるとばかり思っていた。
「すみません。今家に帰ってきました」
「え、お前いきなりオールかよ」
電話の向こうで東間が笑った。
よかった、怒ってるわけじゃなかったんだ・・・
優翔は少しホッとしてもう一度勝手に店を出て行ったことを謝った。
だが、東間は優翔の客、つまり月深が使った金額の多さを伝えてから
優翔に月深のことを聞き出したかったらしい。
月深が会社を経営しているとだけ伝えるとあっさり電話を切った。
「なんで電話してきたんだろう」
優翔は首を捻ると「ま、いいか」とベッドに横になった。
<「更待月」月の光16へ続く>
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