鳥取月深。優翔がオーナーだった店にちょくちょく通ってきた常連客だった。
いつもは優しい甘いマスクの彼が眉間にシワを寄せて仁王立ちしている。
「なんで・・・」
優翔はわけがわからずただ月深を見つめていた。
「ほう、自らひとりで乗り込んでくるとは良い度胸じゃねぇの」
「バーカ!お前も部下がいなけりゃ一緒だろ」
ドアの後ろで倒れている嵐の部下達の姿がチラッと見えた。
月深は嵐に言い返しながら近づいてきた。
優翔はなんだかすごく恥ずかしくなりそっと嵐の後ろに隠れた。
「優翔大丈夫か?迎えに来たぞ」
と片手を差し出してこられて戸惑っていた。
「ちょっと待てよ。いくら鳥取組の三男坊でもよここは猿島組のシマじやねぇの。それにこの優翔は俺が買い取った大事な商品なのよ」
と優翔の肩を両手で掴んで月深の目の前に押し出す。
優翔の雄の先端に差し込まれたチューブに気づいた月深がクスッと笑ってから優翔の顔を見た。優翔は月深から視線を逸らして横を向く。
「大事な商品ねぇ~実験体なのか?」
と指先でそのチューブに触れようとすると嵐がその手を払った。
「おっと、汚い手でうちの商品に触れられたら売れねぇじゃねぇの。それとも何か?今晩お初でお前がこいつを買いたいってんなら考えてもいいぜ」
「なるほど、乗った」
(乗るのかよ!!)
優翔が月深の顔を振り向くと月深はニコニコと笑っている。
「冗談じゃない」
優翔が2人のやりとりを聞きながら低い声で呟いた。
「お、思ったより元気だね」
月深は嬉しそうに優翔の体の所々に目を走らせる。
何だか嫌な予感がする。
そりゃあ月深は嵐よりもつきあいは長いし、まだ一緒にいても違和感は感じないけど、それとこれとは話は別だ。
それに鳥取組だの猿島組だのそんなことは初耳だ。こいつもやくざだったのかよ・・・
「一晩で100万だ」
嵐が月深に向かってにニヤニヤとする。
「それなら1000万払う。だから俺がこいつを連れて帰る」
と強引に優翔の腕を掴んだ。
月深は自分の着ていたトレンチコートを脱ぐと優翔の背中に羽織らせて抱き上げた。
「ちょっと待て!」
慌てて止めようとする嵐に
「ああそうだ忘れるところだった」
と背広の内ポケットから小切手を取り出すと万年筆でスラスラと金額を書き込んで鮮やかな手つきでそれを切ってテーブルの上に置いた。
嵐はそれを手に持って
「バカめそいつにそんな入れ込んでるとはねぇ~けどそいつの借金は残念ながらまだ2億9千万円残ってるから一ヶ月後迎えをよこすわ。そのつもりでいるんだな。まぁ、それまではお前がそいつに仕込んどいてくれるってんだからこっちは助かるけどな」
その言葉に月深はフッと笑っただけで何も言わずに優翔を抱きかかえて部屋を出て行った。
月深にやられていた嵐の部下達がようやく体を起こしながら二人を見送った。
<「更待月」アルベド7へ続く>
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