羽根は電話に出ると翼は移動中らしくとぎれとぎれの音が聞こえてきた。
「ごめん今空港へ向かう車の中なんだけど、向こうに行く前にどうしても羽根の声が聞きたくなって」
そうだった今日は翼が海外へ行ってしまう日だった。
見送りに行こうと思っていたのに翼から羽根を見ると行きたくなくなるからいつものように見送らなくてもいいと言われていた。
だが、今回は少し長い別れになりそうだ。
翼には一緒に美波と蒼空が同行する。
「兄さん・・・」
羽根は急に寂しそうな顔をすると雫がそんな羽根の横に来て肩を抱いた。
今は世界中どこにいても大抵電話ぐらいは通じるが、今度翼が行くところはまだ携帯は通じないらしい。電話が通じるところまでは数時間かかるらしいので緊急には連絡もできそうにない。その間また羽根は翼には会えない。
だが、今度は雫がいた。
今朝から雫がおかしな事ばかり言うのはそれを知っていて羽根を暗い気分にさせないようにとの気遣いだったらしい。
「元気でね。美波さんや蒼空さんにもよろしく。3人で楽しく仲良くやってよ。俺も元気で待ってるから・・・え、まぁ雫の家でだけど・・・」
そこまで羽根は言ってから電話を雫に渡す。
「兄さんが話したいって」
雫は羽根から電話を受け取って耳に当てる。
「もちろん。ええ。わかりました。あなたもお気をつけて。こっちのことは何もご心配なさらず、いつでも戻られたときは歓迎します」
と言うとまた羽根に電話を返した。
「じゃあ、気をつけてね。また・・うん・・また・・・」
そう言う羽根の声が震えていく。
別に一生会えなくなる訳じゃないけど、今度はいつ会えるかわからない。
羽根にとってたったひとりの肉親だからやはり寂しい。
通話ボタンを押して電話を切ると羽根は雫に抱きついて泣いた。
雫はその背中を優しく撫でる。
羽根の頬を伝う涙を指ですくいながらその頬を掴んで唇を塞ぐ。
すごくすごく優しいキス
雫がいてくれるという安心感
俺はいつからこんなに弱虫で寂しがりになったんだ
全部雫のせいだ
こうしていられることを幸せだと思うなんて・・・
翼、俺もう大丈夫みたいだよ
ひとりじゃないし、幸せだよ
翼も幸せになってください
そしていつかみんなで一緒に暮らせる日が来ると良いと思う
「ねぇ、雫・・・しよう」
「よし、俺のミルクいてっ!」
という雫に後ろから朱鳥がケリを入れた。
「聞くに堪えません」
羽根が笑うと朱鳥も笑った。
その顔を見て雫が驚く。
「お前笑ってるのか?」
「私だって人間ですから」
朱鳥の言葉に羽根は朱鳥の耳元にも何か囁く。
朱鳥が頷くと雫は羽根に
「何て言った?」とキョトンとする。
それがおかしくて2人が笑いながらダイニングルームを出て行くと雫はその後ろから
「おい、こらっ、てめぇ」
と言いながらついていく。
3人が羽根の寝室にたどりつくと誰からともなく3人でベッドにもつれ込んだ。
「てめぇ、朱鳥出て行け!」
と怒鳴る雫に朱鳥はまた微笑む
「私が笑ったら羽根は自由にしていいとの約束でしたから」
「あっ・・・」
雫は言葉を飲み込む。
羽根はケラケラと本気で笑い出した。
翼、俺はすげぇ幸せかも
元気でな
<おわり>
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次回はあとがきをのせさせていただきますm(_ _)m
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