心地良い声に誘われて羽根は重い瞼を上げた。
羽根の目に映ったのはリムジンの中の景色ではなかった。
「ここはどこ?」
羽根の言葉に雫はニッコリと微笑む。
「俺の家」
ああ、やっぱり俺監禁されちゃうのかな・・・
不思議と大きな不安はなかった。多少の心配はもちろんある。兄の翼のこと、会社のことなど、でもきっとこの雫のことだから各方面うまく誤魔化すに違いない。
「ダイニングに食事を用意させてあるけど、怠い?ここで食べる?」
雫は羽根にそう言いながら顔を寄せてきた。
そんな仕草を見ていると監禁と言うよりも恋人同士の同棲と言った方がピンと来る。
「あんまり食べたくないけど・・・動けない訳じゃないから行きます」
起き上がる羽根に雫は手を貸した。
「無理しなくてもいいけど、ひとりで食べるのも飽きたから羽根がいてくれると嬉しいよ」
そう言って微笑む雫は溶けてしまいそうなほど優しい。
「俺でいいならいつだって付き合いますよ」
雫の笑顔につられるように羽根も微笑むと、雫はそれを見て安心した様子で
「羽根が笑って良かった。このまま君が辛い顔していたらどうしようかと思ったよ」
と『監禁』という単語とはかけ離れた様子がうかがえる。
強引に嫌がる羽根を閉じこめるイメージが監禁なら、同意の下に同居するだけならやはり同棲なんじゃないかと羽根は考えていた。
「ん?」
羽根が黙って雫の様子を眺めていることに雫は首を傾げた。
「どうしたの?キスして欲しい?どれ」
といきなりチュッと唇を重ねられる。雫の慣れた舌が羽根の舌に絡みつきながら軽く唇を吸って離れていった。
いきなり重ねられた唇に呆然と雫を見つめていた羽根はフルッと頭を振って現実に思考を戻す。
「もう、そういうのやめてください」
赤い顔で講義する羽根の背中に手を添えながら部屋を出るよう雫が促した。
「今更赤くなる君が新鮮すぎて襲っちゃいそうだよ。早くダイニングへ行こう」
「ふざけないでください。それから」
と羽根は背中に添えられた手から離れた。
「人前で余計なスキンシップも嫌いです」
「ほう、それは興味深い。知らなかったなぁ」
雫は肯定するわけでもなく、かといって否定するわけでもない意見を述べると羽根の横に並んでダイニングまでの廊下を歩き出した。
雫の家は家というよりも豪邸とかヨーロッパの城みたいに広かった。
廊下にはいくつかドアがあり、その廊下も結構広い。
中央にミュージカルか何かに出てくるような広い幅の階段があり、ダイニングはその階段を下りたところにあるらしかった。
羽根はキョロキョロとあちこちを見て歩きたい衝動をぐっとこらえていた。
「大きい家ですね」
羽根が隣を歩く雫にそう言うと雫は苦笑した。
「俺と使用人だけしか住んでなくて寂し限りだよ」
どこか寂しそうな笑顔に羽根のは胸が痛みを感じた。
どうして・・・
<「恋占い」監禁部屋にて2へ続く>
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