明日は絶対に会社を休もうと羽根は決めていた。
しばらく山田の顔も見たくはない。
あんな酷い先輩だなんて思わなかった。それに何度も繰り返し呟かれたペットにすると言う話も、満更嘘ではなさそうで怖かった。
きっと山田は羽根を監禁したがるに違いない。
山田には普段感じられない異常性を感じた。普段はとてもいい人だったのに、ああいう場面になると人格が変わった。
世間には色々な人がいるから希にそういう相手に出会うことだってある。
だが、一番厄介なのは自分がその相手に気に入られてしまったことだ。
「どうしよう」
部屋に帰ってようやくホッとした羽根は、ここ数日の悪夢のような出来事を考えていた。
こんなにも急激に身の回りが変化したのは、元カノと別れてからだった。
まるで自分がフリーになるのを知っているかのような変化だった。
会社で信頼していた山田までもが豹変してしまった今、羽根の頼れるのは実の兄の翼くらいだろうか。
そんなことを考えていると、携帯の着信音が鳴った。
表示画面には翼の文字。
タイミングの良さに羽根は驚いた。
「もしもし兄さん」
「やだなぁ羽根、翼って呼んでくれないのかい」
どっちでも良いと思いながらそれでも羽根は
「翼元気そうだね」と微笑んだ。
「実は近くにいるんだけど羽根は今ひとりかな?」
冗談めいた言葉に羽根の心がホッとする。
「いいよひとりだから来ても」
と言うと同時に部屋のインターホンが鳴った。
「全く・・・」
翼はいつも羽根の部屋の前で電話をしてくるから同時にインターホンを鳴らす。
それに慣れている羽根は確認せずにドアを開けた。
「翼!!」
「誰だ!翼って!!」
「はっ!!」
突然羽根の腕を掴んだは兄の翼ではなかった。
「しずく?どうして」
羽根の両腕を掴んでそのまま羽根の部屋に上がりこんだ男は上品な仕立ての良いスーツを身に纏った雫だった。
「もう傷は治ったんですか?」
羽根は雫の脇腹に手を添えた。
「傷は浅かったし、大部良いから今日から復帰したんだけど、羽根の会社に連絡したら
会社にはいるのに連絡がつかないし、携帯も全然繋がらなかったから心配で」
心配なのはどっちだろうと羽根は少し呆れたが、確かにあれからさんざん酷い目にあった。
そんなことは雫には言えない。
「あ、いえ大丈夫です。ちょっと忙しくてすみません」
羽根は言葉を濁した。
だが雫はそんな羽根の顎を掴むと逸らした視線を覗き込んだ。
「正直に言っても怒らないよ」
「いえ・・・本当に・・」
羽根が懸命にそう言うと「まぁ、いい」と雫は羽根に顔を近づけていく。
そこにまたインターホンが鳴った。
「あ、そうだ忘れてた」
羽根が急に雫から顔を背けてドアの方を振り返った。
「翼が来た」
「だから翼って誰?」
雫の問いかけに羽根は玄関まで歩きながら
「兄さん」とにっこり微笑んだ。
<「恋占い」羽根の部屋にて2へ続く>
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