取引先を出て20分ほど車を走らせると既に3時を過ぎていた。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[0回]
「ここだな」
雅秀が車を止めた場所は木造の風情が感じられる温泉宿だった。
光長も車を降りると雅秀はさっさと入っていく。正面のフロントで記帳をしている。
まさかここに宿泊するのだろうか?光長は尋ねようとしたがすぐに仲居らしき女性が雅秀の前になって歩き出した。
「ご旅行ですか?」
「いえ、仕事で」
会話が続けられ尋ねる機会を失ってしまった。
案内された部屋は突き当たりの角部屋で正面の角に窓があり手前に椅子とテーブルが置かれている和室だった。
正面の窓からは山と下を流れるきれいな渓流が見られた。
「それじゃあ何かご用がございましたら内線0番でお呼びください」
案内してくれた女性は簡単に部屋の使い方だけ説明するとそう言って出て行った。
「ここに泊まるのか?」
光長はようやく雅秀に尋ねる機会を得て聞いてみた。
雅秀は何も言わずにまた意地の悪い笑みを浮かべた。この顔で笑うこの男は決まって光長に何かを企んでいる時だ。
光長は雅秀の笑みでやはり自分の予想は間違っていなかったと確信した。
「俺は風呂に行ってくるが、お前も一緒に行くよな」
光長に同意を求めておきながら断ることなどあり得ないと言わんばかりに雅秀は立ち上がる。
光長も渋々浴衣を手に立ち上がった。
「お、俺のも一緒に持ってきてくれ」
光長が手にした浴衣を見て雅秀は先に戸口のところで待っている。
光長が2人分の浴衣を持って行くとそのまま戸を閉めて歩き出した。
「露天風呂でここの湯は気持ちいいぞ」
ふっと子供のような無邪気な顔でそう言われて、光長は自分の考えていたことが真つがっていればいいと思った。
殿方と書かれたのれんをくぐると白木が見事に磨かれた床が広がる一段高くなっている場所でスリッパを脱いで上がっていくと脱衣所のロッカーにカゴが入った物がたくさん並んでいた。
どこにも衣服が置かれていないところを見ると現在誰も温泉には入っていないらしい。
光長が一番奥の一番上の段のロッカーに浴衣を入れる。雅秀は数個隣のろっかーのカゴに衣服を脱いで入れ始めた。光長は衣服を脱いでいく雅秀を見て、そういえば雅秀が先に裸になる機会など少ないと思っていた。こうしてみると引き締まった筋肉質の体が細く華奢な自分とは違って男らしく羨ましいとさえ思ってしまう。
「何見てんだ」
雅秀にその視線を気づかれて光長はハッとした。
男の裸をジロジロ見るなんて物欲しそうな態度に顔が赤くなる。
「やっぱりお前って男が好きなの?」
突然意地の悪い言葉を浴びせられると光長は「違う!」と自分の衣服も脱ぎ始めた。
雅秀はフフンと笑いを含みながら先に風呂場の戸を開いて入っていった。
光長も全てを脱ぎ終えると腰にタオルを巻いて戸を開けた。
「これは?!」
風呂場を見て驚いた。180度パノラマの山の上の風景の中に岩場の温泉が広がっている。
外から見ようと思えば見えるのではないかと思われる場所だ。まぁ男だからさして問題もないのだろうが眺めがいい分、丸見えかもしれない。
もちろん山の景色なので道路とか民家などは全くないのだが・・・
「どうだ?すげぇだろ、ここですると外でしてるみたいで開放的だろ」
雅秀の言葉に光長はまたゾッとした。
どこまでも新しいことを思いつく男である。
<「弦月」温泉宿にて3へ続く>
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