「私はいつでも嫉妬していた」
顔に出さなくても君が泣き叫ぶ姿がたまらなく好きだった。
もちろん最初からあまり友好的ではなかったので羽根には知られていたのだろう。
「君は汚しても汚しても余計に輝いていく」
抱きしめている朱鳥の腕がきつくなった。
いつも表情を変えない男が、滅多なことでは変わらない男が
もしかしたら泣いているのかもしれない。
だから知られたくなくてギュウギュウと抱きしめてくるのだろうか?
それ以降の言葉は聞こえなかった。ただ、小刻みに朱鳥の腕が震えていた。
羽根はそのままじっとしていた。
「雫はどうして俺だったの?」
しばらくして朱鳥の腕が緩むと羽根は静かに言った。
「さぁ、私には理解できませんでしたから・・・でも普通だからでしょうか」
「普通・・・か・・そうだね俺は普通に彼女がいたし、あ、雫に別れさせられたみたいなもんだけど・・・」
「あなたには口止めされていましたが、あの女性には別に何人か男がおりました。それも私が少し口説けば男でもホイホイと落ちるような男達・・・」
羽根は朱鳥の腕を掴んで体を離すとその瞳をじっと見つめた。
僅かに充血した瞳が彼が泣いたのかどうかもうわからないほど薄れていた。
「そんなことまでしたの?あ、あの占いの館って・・・」
羽根は何かを思いだしたように朱鳥を見つめた。
朱鳥はまた元の表情に戻っていた。
「あなたの彼女のメールが不自然だとは思いませんでしたか?それにタイミングの良いティッシュとか」
「あっ・・・全部見ていたの?もしかしてあの痴漢野郎も」
「もちろん、彼も雇い入れました。でもあの店で再会したのは偶然でしたね。あなたのお兄さんの周りに関しては我々の予想外な事ばかりでした」
朱鳥は羽根のベッドの端に腰掛けた。
羽根はベッドの上に座っている。
「ほんの数ヶ月しか経っていないのに大夫昔の出来事みたいに感じる。彼女のことは特にそう思えるようだ」
「それは雫様の思惑通りですね」
朱鳥は長い指先で羽根の顎をとらえた。
「もう、あなたは女を抱くよりも男に抱かれる方が良いと知ってしまった。今更女など好きにはならないでしょう」
羽根はじっと朱鳥を見つめた。
キスされると思った瞬間その唇に朱鳥の親指が触れた。
唇からその隙間を割って親指を口の中に入れてくる。
思わず舌を絡めると朱鳥は満足したように口元を上げて微笑んだ。
「ほら、こうしただけでもう欲しがる」
条件反射のように動く口をそう指摘されてカッと赤くなった。
言い訳すら考えられずに戸惑うと、朱鳥は更に口の奥へと親指をねじ込んだ。
まるで人形のように口元を弄ばれる。
だが、羽根の体はそれだけでその先の甘い予感を呼び起こしてしまう。
朱鳥の指先は官能的だった。
<「恋占い」占いの館にて14へ続く>
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