(エレベーター?ということはエレベーターでのセクハラもこいつが)
光長は壁に貼り付いたまま驚愕に言葉を失っている。
雅秀は光長に背中を向けると中央にある席に戻って座った。
座ってから長い足を組むと光長を見る。
まるで何事もなかったかのように手帳を広げた。
何もなければその姿は俳優かモデルのように様になっている
光長はテレビが面かスクリーンの映像でも見ているようボーとしていたら
「何してるんだ、早く座れ」
と言われて慌てて向かい側のイスに座った。
「なぁに、慌てなくたっていつでもお前を好きにできる。それに今変なことをして逃げられたら立場上良くないしな」
光長はその言葉をどう捕らえるべきか考えていた。
(今しなくてもいつでもできる?したいときにするって意味か・・・それはそれでいつも怯えていなくてはならないのか?)
「お前なぁ、仕事するぞ」
そう言われて何もなかったかのような振る舞いに逆に光長はジリジリと怒りがこみあげてくる。
「・・・謝れよ」
「え?なんて言ったんだ?」
下を向いたまま言った言葉を雅秀は聞き取れなかったようだ。
光長が顔を上げて雅秀の瞳を見つめた。
「私に謝れ、こっちが悪いみたいな言い方されて、はい、仕事です。みたいに簡単に流すことなんかできるはずないだろ。そうじゃなくたって、今ここで一緒にいるだけで嫌悪で全身に鳥肌が立つ」
光長は次第に声が大きくなっていく。
ところが雅秀は足を組んだまま面白そうにニヤリと口元を上げて笑った。
「ふざけるな!!どこまでも舐めやがって!」
ドンッ!と中央に置かれているデスクを叩いて光長が立ち上がると雅秀も立ち上がった。
ゆっくりとデスクを回り込んで光長の目の前に立つ。
今度は光長も恐れるという感情よりも怒りの感情の方が勝っていたので後ろには下がらなかった。
雅秀が光長の顎を掴んだ。
「あぁあ、お前が悪いんだぜ」
意味がわからず光長は覗き込んでくるその瞳を睨んでいる。
だかすぐにその視界が暗くなるり、唇を湿った感触がふさがる。
何が起きているのか光長が理解するまでに数秒かかった。
その隙に雅秀はすっかり光長の体を腕の中に入れていた。
「・・・っ!」
口の中に雅秀の舌が入ってきてキスをされていることに気がついた光長は雅秀の股間をおもいきり膝で蹴り上げた。
「くっ・・・てめっ!!」
同時に雅秀が体を屈める。
光長は雅秀から離れて立って見下ろした。
端正なモデルのような顔が痛みに歪んでいる。その姿を見て少しだけスッとした。
だがまだ全然許す気にはなれない。
「これから一緒に行動するだけでも不愉快だ。だが入社早々に先輩の不満を言うほど私も子供じゃない。お前が謝ればとりあえず仕事だけはおとなしく従ってやる」
雅秀は蹴られた股間を押さえながら光長に苦笑した。
「ったく・・悪かった。謝る・・・いてぇ・・・お前・・男ならわかるだろ」
「自業自得だ。さて仕事だったな」
今度は光長が上から覗き込む。雅秀はしばらく押し黙っていたがやがて痛みが和らぐと手帳を広げた。
<「弦月」商談室にて3へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます。
すごく嬉しいです。がんばれますvv
PR