その間にナジムの背中をさすったり。抱きしめたりしてくれた。
思っていたよりもずっといい人なのかもしれない。
ナジムはようやく口を開く気になった。
「家に着いてドアを開けたら」
「・・・」
「誰の声もしなかった。それどころか人の気配すら感じられない。そう思って裏庭に続く道を歩いていくと・・・」
ナジムの背中がブルブルとまた震えだした。
その手をアサドがそっと掴む。
「床が濡れていた・・・よく見るとそれは赤くて・・・その先に母、父、妹が真っ赤になって倒れて・・・冷たくなって・・・」
ナジムの声が次第に大きくなる。
ガタガタと震えながらアサドの手と服をぎゅっと握る。
「血が・・血だらけで・・床が・・・誰も動かなくて」
「もういい。わかったから・・・ナジムもう忘れていいから」
「それから・・真っ暗になったんだ・・・」
「わかった。もういい!」
震えながら大声で泣き叫ぶナジムにアサドは驚いた。
こんなに激しく動揺するナジムははじめてだった。
両腕でナジムを抱きしめて懸命に押さえ込もうとする。
だが、ナジムの瞳は開かれたままどこか遠くを見つめている。
「大丈夫!もう大丈夫だから」
ぎゅっと抱きしめながらナジムの頭を撫でていく。
ナジムはハッとして顔を上げると、その唇にアサドの唇が重なった。
唇を塞がれてようやくナジムは崩れ落ちるようにベッドに倒れ込む。
震えが止まったのを見計らってアサドがナジムの唇から離れると、ナジムの両方の瞼からは涙が流れ出した。
そのままベッドに顔を埋めて泣きだした。
アサドはベッドに背を向けて歩き出した。
背中越しに
「後ほどお迎えに参ります」
とドアを開いて出ていった。
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